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チンパンジーから学ぶ

 
京都大学霊長類研究所 松沢哲郎先生の著書「おかあさんになったアイ」を読んで大変感銘を受けました。子供の時に、ジャングルより連れて来られて人の手で育てられたメスのチンパンジーは妊娠出産したとしても、必ず育児拒否になるとのことです。つまりチンパンジーはコミュニティの中で育たなければ、育児といった一見本能的な行動に大きな支障をきたすのです。霊長類の中で、ニホンザルなどの旧世界ザルとヒトは進化の段階で約3000万年前に分かれました。チンパンジーとヒトは約500万年前に分かれたと考えられ、地球上の生物で最もヒトに近い「進化の隣人」といえます(遺伝子レベルでは98%が同じです)。よってチンパンジーで起こることは、ヒトで充分起こりうると考えられます。われわれ日本人は近年、村社会から核家族社会へと移行しました。村社会なら女性の成長過程で育児に接する機会(年の離れた兄弟の誕生や近所のお姉さんの出産など)がありましたが、核家族社会では、そういった機会は少なくなっています(年の近い兄弟ならどちらも子供です)。核家族社会で育った女性は、前述のメスのチンパンジーと類似しているかもしれません。現代社会で問題になっている育児拒否や少子化も、根底には核家族社会が関係しているのではと考えています。そういったことから、産婦人科医として、妊娠中からの育児指導と、産後の育児コミュニティづくりに努力する必要性を感じています。
 
 また滋賀県立大学の竹下秀子先生の著書
「赤ちゃんの手とまなざし」の内容を紹介します。ニホンザルの新生児は母に常にしっかりしがみついており、離れることはありませんが、母子がみつめあうことはありません。チンパンジーでも、新生児は基本的に母にしがみついていますが、ニホンザルと違って、離してあおむけに寝かせても静かにしています。その際母子にある程度の距離が生じ、母子の間にアイコンタクトが存在します。ただ言葉を持たないため、語りかけはありません。ヒトでは、新生児は基本的に母と離れて生活します。母子の間にはアイコンタクトが存在し、母から子に語りかけがあります。つまりニホンザル〜チンパンジー〜ヒトと進化する過程で、母子の物理的な距離は大きくなったが、その距離をアイコンタクトや語りかけで埋めてきたと考えられます。アイコンタクトや語りかけが、心理発達に重要で、結果ヒトの多彩な情緒活動につながったと考えられます。実際ネグレクトなどの乳児虐待を受けた赤ちゃんが、大きくなっても情緒活動に問題をきたすことが知られています。このようなことを考えると、お母さんと赤ちゃんがみつめあい、語り合うことができるような育児指導をしていかねばならないと思っています。

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